運送業界では、ドライバー不足・燃料高騰・長時間労働問題など、構造的な課題が山積しています。その中で見逃せないのが、「走っていない時間」――つまり、待機や荷待ち、非稼働時間の増加です。例えば、配送先での荷下ろしを待つ間や、次の配車指示が出るまでの待機など、トラックが止まっている時間は1日のうち数時間にも及ぶことがあります。この“空白時間”が、企業にとっては「コスト」以外の何物でもありません。しかし今、この「走らない時間」を“新たな収益源”へと変える動きが始まっています。
車両が走っていない時間を有効活用する為に、各社が注目しているのが「車両×データ活用」のビジネスモデルです。代表的な取り組みや仕組みを紹介します。
1. 車両広告によるマネタイズ
待機中のトラックを“動く広告媒体”として活用する動きが広がっています。荷台の側面や後部を広告スペースとして提供し、走行中や停車中にブランド露出を図る仕組みです。
2. データの二次活用で稼ぐ
テレマティクス(車両の位置情報や運行データ)を活用し、物流データそのものを価値ある商品として外部提供する取り組みも進んでいます。
3. 車内スペースの貸し出しサービス
一部の運送企業では、待機中の車両の車内スペースをワークスペースや小規模倉庫として貸し出す試みを開始しています。
これらの取り組みを成功させるためには、次の3つの視点が不可欠です。
①データの可視化と一元管理
車両の状態・位置・利用可能時間をリアルタイムで把握し、システムで一元管理できる環境づくりが必要です。
②マッチング精度の向上
広告主やデータ活用ニーズと、車両の稼働状況を適切にマッチングさせる技術が鍵を握ります。
③柔軟なマインドと業界連携
既存の「運ぶだけ」という概念を超え、他業界と連携しながら新たな価値創出に挑む柔軟な姿勢が求められます。
物流業界にとって、もはや“走る”ことだけが価値ではありません。待機・非稼働時間もまた、大きなポテンシャルを秘めた「資産」なのです。データやスペース、広告など、これまで見過ごされてきたリソースを活かすことで、業界全体の収益構造を根本から変えることが可能になります。走らない時間を「無駄」にするのか、「ビジネスチャンス」に変えるのか――。その選択が、これからの運送業の未来を大きく左右するでしょう。