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運送業はEC市場の拡大やラストワンマイル需要の高まりを受け、今まさに“始めどき”のビジネスです。本記事では、運送業を始めるための許可・手続きの全ステップを、初心者にもわかりやすく解説します。
一般貨物と軽貨物の違い、開業資金、許認可の取得方法、そして収益モデルや運賃設定のコツまで網羅。運送業の開業を成功に導く実践ノウハウがここにあります。
*価格・料金は2025年1月現在の一般的な料金を参考にしたものです。
EC市場拡大による物流ニーズの高まり
・BtoCの国内EC市場は2023年に20兆円超。今後も堅調に成長
・大手EC会社が自社の配送システムの普及し、出荷量増加
・D2Cビジネスの普及により、個別配送ニーズが増加
*D2C=Direct to Consumer / 消費者直接取引
2024年問題とドライバー不足による新規参入のチャンス
・時間外労働の規制でドライバー不足が深刻化
・オンデマンド配送(即日・翌日配送)ニーズの高まり
・フリーランス軽貨物ドライバーの急増中
距離・重量ベースの運賃収益 | 軽貨物:8,000〜15,000円(50km以内) 2t車:15,000〜30,000円(50〜100km) 大型車:50,000〜100,000円(200km以上) |
時間契約型(チャーター・スポット便) | 短期・高単価案件が多い 1日あたり:2t車で2〜3万円前後、10t車で5〜10万円以上 |
固定契約型(専属・請負契約) | ECや小売業者との定期契約で安定収益 月額契約:50万〜150万円のケースも |
運賃設定の基準と利益率 | 輸送距離・重量・契約形態が主な要因 利益率は業種平均で5〜15% 原価計算をもとに適正な運賃設定が必要 |
収益向上のためのポイント | 高単価案件(緊急便・付加価値業務)の確保 固定契約による安定収益の確保 AI配車やルート最適化などのデジタル化による効率化 |
運送業はEC市場の成長に伴い、今後も需要が高まる分野です。
個人の軽貨物配送から法人による一般貨物運送まで、収益モデルや運賃設定の知識を持つことが成功の鍵となります。
収益の最大化を目指すには、以下の点を意識しましょう。
・距離・契約・重量などに応じた適正運賃の設定
・スポット便と固定契約のバランスの取れた運用
・配送ルートの最適化やDXの導入によるコスト削減
今後の市場変化に柔軟に対応しながら、持続的な運送ビジネスの構築を目指しましょう。
運送業には主に「一般貨物自動車運送事業」と「貨物軽自動車運送事業(軽貨物)」の2種類があります。(※不特定多数を対象とする特定貨物自動車運送事業は除く)
項目 | 一般貨物 自動車運送事業 | 軽貨物運送業 |
定義 | 不特定多数の 荷主の貨物を有償で運送 | 軽貨物車両による小口配送業務 |
許可の種類 | 国土交通省の許可が必要 | 運輸支局への届出(許可不要) |
開業の難易度 | 高 (審査・要件が厳しい) | 低 (届出だけで開業可) |
営業範囲 | 全国 (緑ナンバー取得必須) | 地域密着型が多い (黒ナンバー) |
車両要件 | トラック5台以上 (2t・4t・大型) | 軽バン・軽トラック1台からOK |
運賃形態 | 距離・重量ベースで設定 | 委託・フリーランス契約が主流 |
収益モデル | 大口荷主契約・長距離輸送 | 宅配・ラストワンマイル特化 |
初期費用 | 約500万円以上必要 | 数十万円~(車両購入のみ) |
・一般貨物運送事業 → 法人設立+国の許可が必要
・軽貨物運送業 → 個人でも届出で開業可能
運送業の種類 | 許可の種類 | 開業できる形態 | 許可の取得先 |
一般貨物自動車運送 事業 | 国土交通省の許可 | 法人のみ | 地方運輸局 |
貨物軽自動車運送事業 | 開業届出 | 個人・法人どちらも可 | 運輸支局 |
法的要件
・法人であること(株式会社または合同会社)
・資金要件(最低500万円~)
・営業所・車庫の確保(法的条件に適合)
・営業車両5台以上(緑ナンバー取得)
・運行管理者、整備管理者の選任
・安全管理体制(点呼、記録、教育体制)
・運輸開始届の提出(許可取得後)
資金要件の証明方法
証明手段 | 必要書類 |
預貯金 | 銀行の残高証明書+通帳コピー(3〜6か月分) |
資本金 | 登記簿謄本+法人口座の残高証明 |
資産売却 | 売却証明書・契約書 |
融資 | 融資決定通知書+資金計画書(補足が必要) |
※一時的な入金や不確かな資金は不可。開業までの目安期間は6〜12か月です。
届出内容と手順
・運輸支局へ「貨物軽自動車運送事業届出書」を提出
・営業用黒ナンバーの取得(軽自動車)
要件と特徴
項目 | 内容 |
開業形態 | 個人・法人どちらでもOK |
資金要件 | 特になし(車両費のみ) |
営業所・車庫 | 自宅でOK(要件なし) |
車両 | 軽貨物1台から始められる |
保険 | 任意保険・貨物保険への加入が必要 |
開業までの期間 | 約1〜2週間 |
運送業を始めるには、事業形態ごとに必要な許可や届出が異なります。主に以下の3種類があります。
※特定貨物とは、特定の荷主専属で運送する事業で、不特定多数を対象とする一般貨物とは異なります。
運送業の種類 | 許可の種類 | 開業形態 | 許可取得先 |
一般貨物自動車運送事業 | 国土交通省の許可が必要 | 法人のみ | 地方運輸局 |
特定貨物自動車運送事業 | 国土交通省の許可が必要 | 法人のみ | 地方運輸局 |
貨物軽自動車運送事業(軽貨物) | 運輸支局への届出 | 個人・法人可 | 運輸支局 |
不特定多数の荷主を対象に、営業用トラックで貨物を運ぶには、「一般貨物自動車運送事業」の許可が必要です。
開業形態:法人のみ(株式会社・合同会社)
必須許可:国土交通省管轄の「一般貨物運送事業許可」
許可取得のための要件:
資金要件:最低500万円以上(平均1500〜2500万円)→ 資本金+運転資金の証明が必要
車両:緑ナンバーの営業用トラックを5台以上保有
営業所・車庫:法令に適合した物件(市街化調整区域不可)
運行管理者:有資格者を1名以上配置
整備管理者:有資格者を1名以上配置
安全管理体制:点呼・記録管理・運行計画の整備が必要
運輸開始届:許可取得後に提出しないと営業不可
許可取得の流れ:
法人設立(登記)→ 事業計画・資金計画の作成 → 地方運輸局に許可申請(審査:3〜6か月)→ 代表者・役員が「法令試験」に合格 → 許可取得後、運輸開始届を提出
・融資が受けやすく、資金調達に強い
・荷主からの信用度が高い
・事業拡大や大口案件受注がしやすい
軽トラックや軽バンを使って、個人でも始められるのが「貨物軽自動車運送事業」です。許可不要で、運輸支局への届出のみでOKです。
開業形態:個人事業主・法人どちらも可
手続き内容:
・運輸支局に「貨物軽自動車運送事業届出書」提出
・営業用ナンバー(黒ナンバー)取得
開業の流れ:
車両(軽バン・軽トラ)を用意
運輸支局へ届出
黒ナンバー取得
事業用保険に加入(自賠責+任意+貨物保険)
宅配会社や委託元と契約して配送開始
個人で開業するメリット:
・許可不要で簡単、最短1週間で開業可能
・初期費用が少なく済む
・副業やフリーランスでも始めやすい
法人化するメリット:
・節税メリットが大きい
・企業からの案件受注に強くなる
・従業員を雇い事業拡大が可能
開業タイプ | おすすめの人 | 主な特徴 |
法人(株式会社・合同会社) | 一般貨物運送事業を始めたい人/企業案件を取りたい人 | 許可制・信用力が高い・大規模展開向き |
個人事業主 | 軽貨物配送で独立したい人/副業から始めたい人 | 届出制・低コスト・スモールスタートに最適 |
・EC市場の拡大とラストワンマイル配送の需要増
・2024年問題によるドライバー不足と事業参入の好機
・一般貨物・軽貨物・チャーター便などの業態比較
・BtoB(企業配送)とBtoC(個人配送)の違いと選び方
・主要ターゲット(建設資材・医薬品・食品・ECなど)
・都市部/地方、短距離/長距離などの戦略立案
・競合(ヤマト・佐川・軽貨物フリーランス)との違い
・配送スピード、専門性、コスト最適化での優位性確保
・一般貨物(4トントラック×5台)のモデル収支
・軽貨物(1台・宅配中心)のモデル収支
・利益率と初期コストの比較で見る事業判断
・開業が簡単・低コスト・1台からスタートできる
・信用力・融資・M&Aに弱く、事業拡大に不向き
・許認可取得・大手企業契約・節税に有利
・設立費用・会計処理の複雑さ・赤字時の税負担が課題
・軽貨物運送なら「個人事業主」でもOK
・一般貨物運送や中長期の事業展開なら「法人設立」が必須
・商号・資本金・役員の決定
・定款の作成・認証 → 登記 → 税務署・年金事務所へ届け出
・必要期間:約3〜4週間
・登記事項証明書、定款、代表者の履歴書
・資金証明(残高証明書・資本金証明)、営業所・車庫の契約書など
1.法人設立・事業計画の作成
2.営業所・車庫・車両(5台以上)の確保
3.地方運輸局へ申請書提出 → 審査(3~6ヶ月)
4.法令試験(代表者・役員)に合格
5.許可取得 → 運輸開始届提出 → 営業開始
・車両登録証明書(緑ナンバー)
・運行管理者・整備管理者の選任届
・保険加入証明書、資金証明書類など
・運輸支局に届出 → 黒ナンバー申請 → 任意保険加入
・必要書類:車検証、任意保険証明、黒ナンバー申請書など
・約1〜2週間で開業可能
・中古車やリースを活用すれば、初期費用は50万円以下も可能
比較項目 | 一般貨物運送業(法人) | 軽貨物運送業 (個人 or 法人) |
開業難易度 | 高(許可制) | 低(届出制) |
開業期間 | 6ヶ月〜12ヶ月 | 約1〜2週間 |
必要資金 | 1,500万〜3,000万円程度 | 数十万円〜 |
利益率 | 5〜15% | 約70%以上 |
成長性・信用力 | 高い(大手との取引向き) | 低〜中(個人・副業向き) |
項目 | 車両リース | 車両購入 |
初期費用 | 低い(頭金不要〜少額) | 高い(ローンor一括購入) |
月額費用 | 定額リース料 | 変動(ローン+維持費) |
維持費 | 車検・税金込みが多い | 自己負担 |
所有権 | リース会社 | 自分(完済後) |
カスタマイズ | 制限あり | 自由に可 |
減価償却 | 経費計上のみ | 資産計上可 |
最終的なコスト | 短期使用向き | 長期保有向き |
▶ポイント
・短期利用や管理簡素化なら「リース」
・長期保有・カスタム重視なら「購入」
項目 | 正社員 | 業務委託 | フリーランス |
雇用関係 | 雇用契約あり | 委託契約 | 自由(個人事業主) |
給与 | 固定+歩合 | 完全歩合 | 案件ごとの報酬 |
社会保険 | 会社が加入 | 自己負担 | 自己負担 |
安定性 | 高い | 中程度 | 低い |
働き方の自由 | 少ない | 一部自由 | 完全自由 |
▶選び方の目安
・安定と福利厚生を求める:正社員
・自由と報酬重視:業務委託・フリーランス
主な原因
・長時間労働・低賃金
・資格取得のハードル
・2024年問題による労働時間制限
主な対策
・労働環境の改善(週休2日・待機時間短縮)
・給与アップ+福利厚生充実
・若手・女性の採用強化(設備・免許支援)
・デジタル活用(AI配車・自動運転)
・外国人労働者の活用(特定技能ビザ)
燃料費 | エコドライブの徹底(急加速・無駄なアイドリングの削減) 燃費の良い車両を導入(ハイブリッド・EV) ルート最適化(AI配車・GPS活用) 法人向け燃料カードで割引利用 |
保険費用 | 任意保険(対人・対物・貨物保険)を比較して契約 テレマティクス保険の導入で保険料を抑える 不要な補償内容の見直し |
メンテナンス費 | 定期点検を徹底し、故障リスクを減らす 消耗品はまとめて購入でコスト削減 リース契約にメンテナンス込みプランを選ぶのも○ |
紹介:
・信頼度が高く、契約率も高い
・商工会や業界団体、SNS経由での紹介依頼が有効
直接営業:
・高単価案件を直接獲得
・電話・訪問・DM・SNSで営業アプローチ
マッチングアプリ:
・大手対応型、地域限定・ラストワンマイル型、全国案件が検索できる
・配車管理連動・地図連動など種類が豊富である為、自社にマッチングしたものを選ぶ
*単発案件には有効。継続案件は紹介や営業で確保がベター。
課題解決
・回送削減 → AI配車で効率化
・遅延対応 → GPS監視で即対応
・コスト削減 → 最短ルートで燃料費節約
運行管理者の主な業務:
・配車・運行スケジュール管理
・点呼・アルコールチェック・健康管理
・車両点検・整備管理
・労働時間・健康状態の管理
・法令遵守と届け出対応
重要性の理由:
・安全運行 → 事故防止
・コスト最適化 → 配車・燃費管理
・信頼向上 → 荷主との継続契約
・法令対応 → 2024年問題対策
取得方法:
・国家試験(年2回/合格率30~40%)
・補助者としての実務1年以上+講習受講
労働時間管理と「改善基準告示」
項目 | 基準値 |
1日最大拘束時間 | 13時間(例外16時間) |
1か月最大拘束時間 | 293時間 |
1日運転時間 | 9時間以内(例外13時間) |
連続運転時間 | 4時間以内に30分以上の休憩 |
年間時間外労働(2024年以降) | 上限960時間 |
対策
・デジタルタコグラフで記録管理
・AI配車で拘束時間の削減
・点呼で健康・アルコールチェック
・確実な休憩・仮眠の確保
・車両と人材の最適な調達方法を見極める
・コスト管理は利益率の要
・荷主獲得とマッチングは複数手段で展開
・法令遵守と運行管理体制の整備が長期経営の土台
運送業界では、価格競争に巻き込まれると利益が圧迫されます。安定した収益を確保するためには、適正運賃での契約を実現する交渉力が欠かせません。
・コストを可視化して根拠を示す
燃料費・人件費・車両維持費などを明示し、「この金額以下では赤字になる」と説明。
・サービス品質で差別化
単なる運搬業者ではなく、配送精度・トラブル対応など“物流のパートナー”として提案。
・荷主側のコスト削減を提案
ルート最適化や待機時間の削減など、荷主にもメリットのある提案を行う。
値段以外の強みをつくることで、価格競争から抜け出せます。
差別化の具体例
差別化ポイント | 内容例 |
即日配送 | 緊急ニーズに対応し、高単価受注が可能 |
チャーター便 | 貸切輸送で柔軟性が高く、長期契約につながる |
専門輸送 | 医療機器・冷凍食品など高付加価値貨物に対応 |
デジタル化 | GPS追跡・AI配車などで透明性・効率を強化 |
高単価契約につながる独自サービス例
・即日配送 × チャーター便(緊急配送・夜間対応)
・専属チャーター契約(定期便を月額固定で提供)
リピーター獲得こそが、運送業の安定収益の鍵です。
・配送品質・対応力の向上
・クレーム時の誠実な対応
・遅延・トラブルの「見える化」などが信頼獲得に直結します。
車両代・人件費・燃料費など、固定費も変動費も大きいのが運送業の特徴です。
・初期投資額(一般貨物で500万〜)を甘く見ないこと
・売上が立つ前の資金繰り(最低3ヶ月分)は確保すること
法令遵守は絶対条件です。
・改善基準告示に基づいた労働時間管理
・運行管理者・整備管理者の適正配置
・過労運転・違法残業は厳罰対象
*違反事例:ドライバーの過労運転で行政処分、許可取消に至るケースも。
委託ドライバーを活用する場合、契約書の整備が不可欠です。
よくあるトラブルと回避策
・偽装請負の指摘:勤務時間の指示NG、報酬は出来高制に
・報酬計算の曖昧さ:単価・キャンセル時の扱いなどを契約書に明記
・契約解除時のトラブル:通知期間・解約条件を設定
・事故時の責任所在不明:任意保険・貨物保険の加入義務を明記
運送業を成功させるためには、価格競争に陥らず、差別化と信頼構築を徹底することが重要です。さらに、適正な契約・法令遵守・資金管理を怠らず、安定経営を目指しましょう。
成功のポイント
・運賃交渉力と高付加価値サービスの提供
・リピーター獲得による安定収益
・法令遵守・資金繰り・委託管理の徹底
運送業の開業には、事業形態に応じた手続きや許可の取得が必要不可欠です。一般貨物では法人設立と厳格な要件クリアが求められ、軽貨物なら個人でもスピーディに開業可能です。市場成長が続く物流業界で安定収益を確保するには、適正運賃の設定・差別化戦略・法令遵守がカギ。事前準備と戦略的な運営により、持続可能な運送ビジネスの構築を目指しましょう。