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運送業の原油価格高騰対策:燃料コストのリスクヘッジ術

2025年7月4日
運送会社M&A

はじめに

 原油価格の上昇は、運送業にとって深刻な経営リスクです。トラックの燃料費は運送コスト全体の大部分を占めるため、価格変動に直面すると、利益圧迫や価格転嫁の難しさに直結します。今回は、運送業がとるべき燃料価格高騰への具体的なリスクヘッジ対策を6つの視点からわかりやすく解説します。


燃料サーチャージ制度でコストを共有

燃料サーチャージとは、燃料価格の変動に応じて基本運賃に追加される料金です。

メリットデメリット
燃料高騰分を運賃に転嫁できる顧客の理解・合意形成が必要
価格変動リスクを分散できる価格下落時も調整ルールが必要
運賃設定に根拠を持たせられる制度が複雑だと現場負担が増す
顧客との透明な関係構築に寄与総額比較で競合に劣ることも


導入のポイント

  • ・顧客との事前合意
  • ・サーチャージの計算方法を明確にする

先物取引・ヘッジ契約で価格変動を回避

将来の燃料価格を事前に固定できる「先物取引」や「燃料の長期契約」も効果的。


代表的な手法


  • ・原油先物取引

    仕組み:
  • 将来のある時点で、決めた価格で原油を買う(または売る)契約を、先物市場で結びます。
  • 実際に原油を受け取るのではなく、「価格差で損益を調整する」ことが目的。

  • ✔ メリット:
  • 価格が急騰しても、安値で契約していれば差額分が利益になり、実際の燃料購入コストを補填できる。
  • 金融商品として柔軟に売買できるため、短期的なリスクヘッジに向いている。

  • ✔ 注意点:
  • 市場価格が契約時より下がった場合、逆に損失が出る(ただしその分実燃料は安く買える)。
  • 為替変動(円安・円高)も影響するため、運用には一定の知識や専門家のサポートが必要。


  • 👉 中小企業は、専門商社や金融機関を通じた簡易的な「先渡契約(Forward契約)」で対応するケースも。


  • ・燃料供給会社との年間固定価格契約

    仕組み:
    地元のガソリン・軽油販売業者と「1年間、特定の価格で燃料を供給してもらう契約」を結びます。
    毎回の給油価格が変動せず、年間を通じて予算管理しやすいのが特徴です。

    ✔ メリット:
    燃料価格の見通しが立てやすく、年間の配送コストを安定させられる。
    金融商品を使わないため、運用がシンプルでリスクも明確。

    ✔ 注意点:
    市場価格が大きく下がった場合、固定価格の方が割高になる可能性がある。
    契約内容(期間、数量、給油所の場所など)に柔軟性がないことも多い。


    👉 実際には「月◯Lまでこの価格で供給」「超過分は市場価格」などの条件付きで契約されることが多いです。


燃費の良い車両やEV導入でコストを根本から削減

燃費性能の高いハイブリッド車や電動トラックへの更新も、長期的には有効な対策です。

効果

  • ・燃料消費の削減
  • ・環境対応で企業イメージの向上

補助金制度の活用を忘れずに
国や自治体が提供する車両更新の補助金制度を活用すれば、初期コストの負担を抑えられます。

主な補助金制度の種類(2024年〜2025年の例)

① 環境省「クリーンエネルギー自動車導入補助金」

  • 対象:電気自動車(EV)、燃料電池車(FCV)、クリーンディーゼルなど
  • 補助額:EVトラックの場合、最大200万円前後/台
  • 条件:排ガス性能、走行距離、車両の登録用途など



② 経済産業省「省エネ補助金・業務用車両支援」

  • 対象:中小企業が業務用に使用する燃費改善車両(HV・EVなど)
  • 補助率:車両価格の1/3〜1/2程度(上限あり)
  • 申請先:事業者経由、または指定業者が代行申請



③ 地方自治体の独自補助金

  • ・都道府県・市区町村で独自にEV導入を支援している地域も多数
  • ・条件や金額は地域ごとに異なるが、国の補助と併用可能なケースもある
    ・例:東京都→最大150万円補助+都独自の低公害車登録支援制度あり


補助金制度を使うとどう変わる?

項目通常導入時補助金活用時
EVトラック本体価格約700万円実質500万〜550万円程度に
中小向けハイブリッド商用車約350万円実質250〜280万円程度に
導入時の資金計画全額自己負担最大で半額近く軽減可能

配車最適化・積載効率向上で無駄な燃料をカット

日々の業務の中でも燃料コストは削減できます。運行計画を見直し、積載効率や配車効率を高めることが重要です。

実践例

  • ・積載率の向上(帰りの空車を減らす)
  • ・配送ルートの最適化(渋滞を回避)
  • ・ドライバーへのエコドライブ教育

最新技術の活用

  • ・AIによる配車システム
  • ・テレマティクスでの運転データ分析



    すぐできることから始めよう
分類内容効果の目安
積載効率改善帰り便の活用月数万円〜数十万円の収益改善
配車最適化ルート・時間帯の見直し燃費5〜10%改善
エコドライブ教育急発進・アイドリング減少燃料使用量5〜20%削減
AI配車効率的な車両運用配車ミス減・燃費改善
テレマティクス運転傾向の可視化・改善継続的なコスト管理

燃料の共同購入でスケールメリットを得る

中小の運送会社であっても、協同組合などを通じた燃料の共同購入でコストを抑えることが可能です。

メリットデメリット
仕入れ価格の引き下げ給油先や契約条件の自由度低下
安定供給・災害対応組合費・手数料が必要
管理業務の効率化市場変化への対応が遅れる可能性
他社との情報連携地域や事業形態によって活用度に差

備蓄燃料による短期的リスク対策

一定量の燃料を社内で備蓄しておけば、急激な価格上昇時にも影響を緩和できます。

注意点

  • ・保管タンク・消防法の規制に対応する必要あり
  • ・中長期的な在庫管理が必要



    導入時に検討すべきポイント
項目内容
備蓄量の目安日常使用量の5日〜2週間分が一般的
法的手続き消防法上の届出・許可、設置前の事前協議が必須
タンク設備屋外設置・防油堤・通気管などの基準を満たす必要
品質管理定期利用による在庫回転+残量・状態の点検体制
コスト面設置費(初期)+年次点検・清掃(維持費)

長期的な視野での対策も不可欠

燃料価格への対応は短期的なものに留まらず、業態転換や物流体制の再構築も視野に入れるべきです。

将来に備えた取り組み例

  • ・再生可能エネルギーの導入(太陽光・水素トラックなど)
  • ・物流拠点の再編(配送距離の最適化)
  • ・デジタル化(DX)による効率化



まとめ|変動リスクに「備える経営」が生き残りの鍵

  燃料価格の高騰は避けられないリスクですが、対応策は数多く存在します。重要なのは、価格が上がってから慌てて動くのではなく、事前に「備えておく」ことです。

 運送業としての競争力と持続可能性を維持する為にも、自社に最適なリスクヘッジ戦略を見つけて、早期に実行へ移しましょう。

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