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近年、EC市場の拡大や消費者ニーズの多様化により、物流業界には「速く・正確に・コストを抑えて」商品を届けることが求められています。その中で重要な鍵を握るのがサプライチェーンの最適化です。運送業の視点から見ると、効率的な在庫管理と配送ネットワークの再構築によって、コスト削減だけでなく、納期遵守率の向上、環境負荷の軽減など、さまざまな成果が期待できます。本記事では、物流におけるサプライチェーン最適化の戦略と、実際に成果を上げている取り組みを紹介します。
世界情勢の変化や自然災害、パンデミックといった不確実性が高まる中、従来の「コスト重視・ギリギリ管理」の物流体制は限界を迎えつつあります。
課題例:
・複数拠点への分散在庫の管理コスト
・一部拠点への過剰在庫・欠品・無駄な横持ち輸送
・再配達の増加・人手不足による配送リソースの逼迫
こうした課題に対し、全体最適の視点での在庫戦略・配送設計が不可欠です。
在庫管理は、物流の効率性と顧客満足を両立させる上で最も重要な要素のひとつ。
効率化のポイント
① 在庫の可視化とリアルタイム連携
・倉庫管理システムの導入により、各拠点の在庫状況をリアルタイムで把握。
・EC・店舗・卸など複数チャネルとの在庫連携により過剰・欠品の最適バランスを実現。
② AIによる需要予測
・過去の販売データ、季節要因、天候、キャンペーン情報などをAIが分析。
・需要変動を先読みし、適正在庫の自動補充や分配が可能に。
③ クロスドッキングの活用
・倉庫に保管せず、中継拠点で商品を即時仕分け・配送する手法。
・保管コスト削減とリードタイム短縮を同時に実現。
事例:大手食品卸が、AI需要予測+クロスドッキングの組み合わせにより、在庫日数を30%削減しながら欠品率を5%以下に抑制。
物流コストの大半を占めるのが「輸配送費」です。そのため、配送ネットワークの見直しはサプライチェーン最適化における重要なテーマです。
個別の改善では限界があります。サプライチェーン全体を俯瞰する設計思想が求められます。
重要な改善策
① 配送ルートのAI最適化
・自動配車システム(例:MOVO、LATTICE、ROUTEHUBなど)を導入し、交通状況や積載率、配送時間を加味した最適ルートを自動生成。
・混載輸送や複数荷主間での共配便により、空車率を削減。
② 配送拠点の再構築
・中継センターを増設・集約する事で、リードタイムと輸送距離のバランスを調整。
・地域毎の需要分布に応じ、マイクロデポやダークストアを戦略的に配置する動きも。
◆ マイクロデポ(Micro Depot)とは?
小規模な都市型物流拠点のこと。大都市圏や人口密集エリアの近くに設置され、
ラストワンマイル配送の効率化を目的としています。
◆ ダークストア(Dark Store)とは?
一般の消費者が来店しない、小売専用の非公開型店舗または倉庫です。
主にオンライン注文のピッキング・配送拠点として機能します。
◆ マイクロデポとダークストアの違い
項目 | マイクロデポ | ダークストア |
---|---|---|
主な目的 | ラストワンマイル配送 | オンライン注文のピッキング・発送 |
拠点の形態 | 小規模な物流拠点 | 非公開型の小売倉庫 |
使用者 | 運送会社・配送員 | 小売業者・EC担当 |
顧客の立ち入り | 不可 | 不可 |
活用場面 | 都市部の配送短縮 | EC注文への即応 |
③ ラストワンマイルの改善
・都市部では宅配ボックスや置き配、ドローン配送の実証実験も進行中。
・郊外では地域配送パートナー(地場業者)との連携により、柔軟な配送網を構築。
統合的な最適化のポイント
領域 | 取り組み例 | 効果 |
---|---|---|
調達 | 発注リードタイムの短縮、サプライヤー統合 | 調達安定性とコストの両立 |
生産 | 需要予測に基づく生産量調整(JIT) | 過剰在庫・無駄な輸送の削減 |
保管 | 分散型から統合型倉庫戦略への転換 | コスト削減、管理の一元化 |
配送 | 配車の自動化、ラストマイル多様化 | リードタイム短縮、再配達削減 |
また、KPIの設定とモニタリングも不可欠です。例えば、
・配送リードタイム
・欠品率/過剰在庫率
・積載率
・配送コスト比率(売上比)
これらをダッシュボードで可視化し、継続的に改善を回す「物流PDCA」の文化を育てることが重要です。
注目の技術
・ブロックチェーンによるトレーサビリティ強化
・IoTセンサーで温度・衝撃などの配送環境をリアルタイム監視
・ロボティクス倉庫(自動搬送ロボット・仕分け機)
・グリーン物流(EVトラック、最短ルート配送によるCO2削減)
これらの技術を導入することで、環境負荷の軽減とESG経営にもつながります。
物流は単なる「モノの移動」ではなく、企業と顧客を結ぶ価値の移動です。在庫管理の精緻化、配送ネットワークの再構築、そしてサプライチェーン全体の統合的改善に取り組むことで、収益性と顧客満足の両立が可能になります。サプライチェーンの最適化は、コスト削減以上に、未来の成長を支えるインフラ整備といえるでしょう。