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ゼロエミッション時代の運送業:EV・水素トラック導入のメリットと課題とは?

2025年7月4日
運送会社M&A

はじめに

地球温暖化対策が加速する中、物流・運送業界も「脱炭素」への対応が急務となっています。特にEV(電気トラック)や水素トラックの導入は、今後のゼロエミッション社会の実現に欠かせない要素です。本記事では、政府のカーボンニュートラル目標と運送業界への影響、EV・水素トラックの導入支援策、コスト面の課題、そして先進企業の実例を交えながら、次世代物流への道筋を詳しく解説します。


カーボンニュートラル政策が運送業にもたらす影響

政府は「2050年カーボンニュートラル」を掲げ、産業全体の脱炭素化を推進しています。運送業界は日本全体のCO₂排出量の約18%を占めており、とりわけ商用車(トラック)の電動化が重視されています。

🚛 主な影響と義務化の動き:

  • ・2030年までに新車販売のEV比率を大幅に引き上げ
  • ・環境配慮型輸送(グリーンロジスティクス)の普及
  • ・企業への「温室効果ガス排出量の開示」要請の強化(Scope 1, 2)


EV・水素トラック導入支援策と注目の導入事例

国や自治体は、EV・水素トラック導入を後押しする補助金制度や税制優遇措置を展開しています。



主な補助金・支援制度(2025年時点)

支援内容概要
商用車グリーン化補助金EV/FCトラック導入費用の1/2〜2/3補助(条件あり)
インフラ整備補助急速充電器や水素ステーションの設置費用を補助
税制優遇自動車重量税・取得税の減免など


📌 導入事例:

  • ・ヤマト運輸:EV軽トラック約1,000台を順次導入、都市部での配送に特化

  • ・トヨタ×CJPT:水素燃料トラックを活用した物流実証を実施中(愛知県)


EV・水素トラック導入に立ちはだかる3つの課題

EV・水素トラックには大きな将来性がありますが、導入にはインフラ・価格・性能という現実的な課題も存在します。



① 車両価格の高さ

EVトラックはディーゼル車に比べて2〜3倍の車両価格となる場合が多く、水素車はさらに高額です(1台あたり数千万円規模)。



② インフラ整備の遅れ

  • ・急速充電器の設置場所が都市部に偏っている

  • ・水素ステーションは全国でまだ150カ所以下(2024年末時点)



③ 航続距離と積載性能の制約

  • ・EVトラックは1回の充電で約150〜200kmが限界(中型)

  • ・積載重量や急勾配でのパフォーマンスに課題あり


導入ステップとコスト比較:EV・水素 vs ディーゼル

EV・水素トラックの導入を検討する企業は、「コスト回収」の視点を持つことが重要です。以下に、損益分岐点を計算する上での主要項目を示します。

導入までのステップ:

1.補助金・助成制度の確認と申請

2.運行ルートに応じた車両選定(航続距離・積載量)

3.充電/水素インフラの検討

4.ドライバー教育・車両管理体制の整備

    📊 コスト比較イメージ(5年運用)

    項目EVトラックディーゼルトラック
    購入価格約1,200万円約600万円
    燃料・電気代年間約30万円年間約70万円
    メンテナンス低め(部品点数が少ない)高め
    補助金最大600万円相当対象外

    損益分岐点:約5〜7年(長距離配送より短距離・定常ルート向き)


    先行企業の取り組みに学ぶ:ゼロエミッションへの現場対応

    ゼロエミッション車両の導入は、単なるイメージアップではなく、物流効率の向上・コスト削減・規制対応といった多面的な目的を持って進められています。ここでは、実際にEVや水素トラックを導入・実証している2社の具体事例をご紹介します。

    佐川急便(SGホールディングス):EV宅配車両を都市部で本格導入

    佐川急便は、2022年から本格的にEV宅配車両の導入を進めており、2025年度までに小型商用EVトラックを7,000台規模で導入する計画を公表しています。すでに東京都・大阪府・愛知県の都市部では、実運用が始まっています。

    🔋 導入概要:

    • ・導入車両:ASF(エレクトリック・ビークル・ジャパン)製の小型EV「EV-Cargo」など
    • ・導入台数:2023年度末時点で約1,000台を超える
    • ・主なエリア:東京23区、名古屋市、大阪市内の宅配ルート
    • ・主な用途:小口配送、当日配送、再配達対応ルート

    🧠 特徴的な取り組み:

    • ・AIによる配送ルート最適化システムを導入し、車両の電費(1kWhあたりの走行距離)を最大20%改善
    • ・EV車両特有の航続距離制限(約150km/日)に合わせた午前・午後の二部制運用

    📈 成果:

    • ・年間CO₂排出量を約10,000トン削減見込み(7,000台導入後)
    • ・都市部の騒音・排ガス問題にも貢献



    日野自動車 × セブン&アイ・ホールディングス:水素燃料トラックの共同実証

    セブン-イレブンを展開するセブン&アイHDと日野自動車は、水素燃料電池(FC)トラックによるコンビニ配送の共同実証プロジェクトを2023年から開始。これは「脱炭素×安定輸送」の両立を目指したモデルケースとして注目されています。

    🚛 導入車両・技術:

    • ・車両:日野自動車製「日野プロフィアFCトラック」(トヨタと共同開発)
    • ・特徴:航続距離600km以上、水素充填時間は10分程度
    • ・燃料電池技術:トヨタMIRAIと同系統のセルスタックを搭載

    📍 実施概要:

    • ・実証エリア:埼玉県および首都圏近郊のセブン-イレブン配送センター〜店舗間
    • ・対象ルート:1日あたり150〜300km、冷蔵・冷凍品混載ルートで稼働
    • ・温度管理:EV同様、バッテリーと冷却系統の連動システムを検証中

    📌 検証目的:

    • ・商用利用における水素充填時間の効率性
    • ・長距離配送時の水素消費パターン
    • ・ドライバー負担の軽減(騒音・振動面の低減も含む)

    🌱 脱炭素効果:

    • ・1台あたり年間最大50トン以上のCO₂排出削減効果を想定


    導入企業に共通する成功のポイント

    1.国や自治体の補助金制度を積極的に活用(最大導入コストの1/2〜2/3相当を補助)

    2.段階的導入(限定エリア・限定ルートからスタート)

    3.IT・AIとの連携による効率運用(ルート最適化・稼働データ解析)

    4.社会的評価・ブランド価値向上への波及効果

      これらの事例は、ゼロエミッション車両の導入が単なる「環境対策」にとどまらず、競争力強化・業務効率化の要となり得ることを示しています。




      まとめ

      脱炭素対応は「先行者利益」となる可能性も

      EV・水素トラックの導入は、確かに初期投資やインフラ面で課題があるものの、長期的には環境規制への対応力やブランド価値向上に直結します。さらに、国からの支援を活用すれば、損益分岐点の短縮も十分に可能です。

      今後は、以下のような対応が求められます:

      対応チェックリスト

      • ・対象車両と用途の明確化
      • ・走行エリアごとの最適車種の選定
      • ・スモールスタートでの段階的導入
      • ・サプライチェーン全体でのCO₂削減意識の共有

      2050年カーボンニュートラルを目指す今、運送業におけるEV・水素トラックの導入は、単なる選択肢ではなく「生き残るための戦略」といえるでしょう。

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