03-6258-5203

運送業の外国人労働者活用の実態と課題

2025年7月4日
運送会社M&A

はじめに

 日本の運送業界では、慢性的人手不足が深刻化しています。高齢化が進み、若年層のドライバー離れも加速する中、人材確保は企業経営における最重要課題の一つとなっています。そんな中で注目を集めているのが「外国人労働者の活用」です。特に、技能実習制度や特定技能制度といった在留資格の枠組みを通じて、外国人をドライバーとして受け入れる企業が増えつつあります。本記事では、外国人ドライバーの雇用実態、導入のポイント、そして活用のメリット・課題について詳しく解説します。

外国人労働者受け入れの制度とは?

技能実習制度と特定技能制度の違い

 外国人を合法的に雇用するには、在留資格(ビザ)の要件を満たす必要があります。運送業で関連する主な制度は以下の2つです。

◆ 技能実習制度:対象外が多く制限も大きい

 技能実習制度は、開発途上国の人材に日本の技術を学んでもらい、帰国後に活かすことを目的とした制度です。ただし、トラックドライバーなどの運送業務は原則として対象外となっており、直接的な雇用は困難です。

◆ 特定技能制度:2024年より「自動車運送業」が追加

 より実践的な制度として注目されているのが、特定技能制度です。2024年、新たに「自動車運送業」が特定技能1号の対象に加わり、一定の試験(技能・日本語)に合格すれば、外国人もドライバーとして正式に就労できるようになりました。

制度名適用対象運送業での活用可否特徴
技能実習技術習得が目的✕(原則不可)期間・職種に制限あり
特定技能即戦力人材○(2024年〜)就労可能・更新可・家族帯同不可(1号)

外国人ドライバー雇用の実態と事例

◆ 現場で働く外国人ドライバーの現状

 特定技能の制度変更を受けて、実際に外国人ドライバーを採用する企業が増加傾向にあります。主な国籍はベトナム、フィリピン、ミャンマーなどで、若年層が中心です。多くは中型トラックでのルート配送や軽貨物運送からスタートし、徐々に業務に慣れていきます。

◆ 事例紹介:地方物流企業の成功例

 ある九州の物流企業では、登録支援機関を通じてベトナム人ドライバーを3名採用。配達エリアを限定し、丁寧な運転研修を実施したことで、事故ゼロ・離職ゼロの定着率を実現しています。企業担当者は「まじめで勤勉。日本人の若手よりも安定して勤務してくれている」と語ります。

外国人ドライバー導入のポイント

1. 採用前の準備

  • ・在留資格の確認:特定技能1号の条件(試験合格、支援体制)を確認
  • ・交通ルールの教育:日本特有の運転マナー、標識、左側通行などの研修
  • ・日本語能力:N4以上が推奨されるが、業務に応じた会話力があればOK

2. 採用後のフォロー体制

  • ・生活支援:住居の確保、銀行口座開設、スマホ契約など
  • ・安全教育:定期的な運転研修・事故対応マニュアルの整備
  • ・異文化対応:宗教・食文化への理解と職場の受け入れ体制が重要

外国人ドライバー活用のメリットと課題

◆ メリット

・若年層の人材を確保できる

・まじめで継続性のある勤務態度

・組織の多様性・グローバル化が進む


◆ 課題・リスク

・日本語の壁による指示の誤解

・日本の運転マナー・安全意識の理解に時間がかかる場合がある

・離職や帰国のリスクへの対応が必要

・労務管理(残業・休日)や人権意識の徹底も不可欠

今後の展望と企業に求められる姿勢

 今後、外国人ドライバーの活用はさらに拡大すると見られています。国としても特定技能の対象拡充や受け入れ企業への支援制度を用意しており、制度と上手に付き合うことで、優秀な人材を長期的に確保することが可能です。企業としては、

  • ・制度に関する正確な理解
  • ・専門家(登録支援機関、行政書士等)の活用
  • ・受け入れ体制の整備と多文化共生の意識

これらを戦略的に進めることが、外国人雇用の成功につながります。

まとめ

 日本の運送業界が直面する人手不足は、短期で解決できる課題ではありません。外国人労働者の活用は、その一助となる有効な選択肢です。

ただし、制度や文化的な違いを理解した上で、受け入れ企業側の体制整備が不可欠です。成功の鍵は、「人としての尊重」と「継続的な支援」にあります。

関連記事